2016年7月1日、大阪府で自転車保険の加入義務化がスタートしました。
日本国内では、兵庫県に次ぐ2例目です。
国土交通省によると、平成25の日本国内「自転車保有台数」は約7200万台。
人口1人あたりでは約0.67台保有している計算になり、大阪府を含む”都市部”では、自転車保有率はさらに上がります。
これは、諸外国と比較しても高い水準であり、自転車は、まさしく、日本人にとって日常生活の「足」と呼べる存在です。
そのため、”自転車保険の加入義務化開始”で影響を受ける方は多いのではないでしょうか?
今回は、ちょっとややこしい自転車保険の加入義務化について、分かりやすくまとめてみました。
目次
自転車保険義務化の背景と目的
自転車保険が義務化になった背景には、自転車関連事故による死亡や重度の後遺症害の増加とそれに伴う高額な賠償額があります。
中には、賠償額が9,521万円にのぼるケースもあり、とても個人で支払える賠償額ではありません。
次は、実際に発生した自転車事故の加害者事例です。
自転車事故の加害者事例 判決認容額(※) 事故の概要 9,521万円 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。( 神戸地方裁判所、平成25(2013)年7月4日判決) 9,266万円 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。(東京地方裁判所、平成20(2008)年6月5日判決) 6,779万円 男性が夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさず走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性(38歳)と衝突。女性は脳挫傷等で3日後に死亡した。(東京地方裁判所、平成15(2003)年9月30日判決) 5,438万円 男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突。女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡した。(東京地方裁判所、平成19(2007)年4月11日判決) 4,746万円 男性が昼間、赤信号を無視して交差点を直進し、青信号で横断歩道を歩行中の女性(75歳)に衝突。女性は脳挫傷等で5日後に死亡した。(東京地方裁判所、平成26(2014)年1月28日判決) 出典:一般社団法人日本損害保険協会
上記の表を見ていただければ分かるとおり、「免許制度」のない自転車は、年齢関係なく誰でも乗れることもあり、経済力のない“子ども”や”学生”が加害者になるケースが多く見受けられます。
無論、子どもが起こした事故は、基本的に親・保護者の責任です。
実際、神戸地裁の判例では、子どもが起こした自転車事故では、母親に9,520万円の賠償命令が下されています。
2015年、警察庁が「交通事故死者数が増加した要因としては、事故に遭った際の致死率が高い高齢者の人口が増加していることなどが挙げられる」と報告で公表しているとおり、今後も高齢化社会の進行に伴い、自転車事故による高額な賠償請求が増加することが予想できます。
今後も増加するであろう自転車事故による
- 損害賠償責任を負った場合の経済的負担の軽減
- 被害者の保護を図ること
を目的に今回の自転車保険の義務化が始まりました。
賠償責任保険が義務化の対象
今回、義務化の対象となったのは、自転車の賠償責任保険です。
つまり、自転車の交通事故により、他人を死亡または怪我を負わせた場合の損害を補償する保険となります。
自分の死亡や怪我への備えは、義務化されていません。
第十二条自転車利用者は、自転車損害賠償保険等(自転車の利用に係る交通事故により生じた他人の生命又は身体の被害に係る損害を填補することができる保険又は共済をいう。以下同じ。)に加入しなければならない。ただし、当該自転車利用者以外の者により、当該自転車の利用に係る自転車損害賠償保険等に加入しているときは、この限りでない。
出典:大阪府自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例
※自転車の利用者が未成年者の場合は、親・保護者が自転車保険に加入しなければなりません。
大阪府に住んでいなくても、通勤や通学で大阪府内に自転車を乗り入れたり、レンタルサイクルを利用したりする場合は、自転車保険の加入義務が発生します。
罰則・罰金の有無
自転車保険の加入義務はありますが、加入義務違反での罰則・罰金はありません。
その理由として、自転車保険は、火災保険や傷害保険の特約やクレジットカードで付帯されたり、本人ではなく家族が契約していたり、自転車利用者の保険加入状況を把握することが困難なためです。
自転車保険等の紹介
「罰則・罰金はない」と言っても、自分や家族の日常生活を守るために、自転車保険は加入しておいた方が良いでしょう。
自動車保険と比べると、保険料もそこまで高くなく、月に換算すると数百円程度です。
これを機会に自転車保険の加入を検討してみてはいかがでしょうか?
今回紹介する保険
- 自転車保険
- TSマーク
- 火災保険等の特約
自転車保険
各社の自転車保険の最安値プランを一覧にしました。(賠償責任補償額が低い順に並べています。)
保険会社とプラン | 保険料 | 賠償責任の補償額 |
---|---|---|
ちゃりぽ | 2,900円 / 年(1人を補償) | 最高1000万円 |
DeNA自転車保険※旧エアーリンク (基本コース) |
3,600円 / 年(家族を補償) | 最高1億円 |
au損保 自転車向け保険 Bycle (ブロンズコース) |
4,150円 / 年(1人を補償) 9,660円 / 年(家族を補償) |
最高1億円 |
三井住友海上 ネットde保険@サイクル (Cコース) |
3,990円 / 年(1人を補償) 5,230円 / 年(夫婦を補償) 7,210円 / 年(家族を補償) |
最高3億円 |
ドコモ サイクル保険 | 5,400円 / 年(1人を補償) 7,920円 / 年(夫婦を補償) 11,880円 / 年(家族を補償) |
最高5億円 |
※2017年3月時点の情報です。保険料等は変わる可能性があります。
裁判の判例を見る限り、賠償責任の補償額1億円以上が望ましいところ。
その場合、DeNA自転車保険の基本コース(年額3,600円)が最安値になります。
それだけでなく、傷害保険(後遺障害・死亡保険金最高70万円、入院保険金日額1000円、通院保険金日額300円)や示談代行も付いてきます。
TSマークにも保険が付帯されてる
TSマークとは、自転車安全整備士が点検整備し、安全と確認された自転車に貼付されるマークです。
このTSマークには、傷害保険および賠償責任保険がセットで付帯されています。
TSマークは、青と赤の2種類あり、それぞれ補償内容が異なってきます。
第一種TSマーク (青色マーク) |
第二種TSマーク (赤色マーク) |
---|---|
出典:公益財団法人 日本交通管理技術協会 |
出典:公益財団法人 日本交通管理技術協会 |
傷害保険 死亡若しくは重度後遺障害:一律30万円 入院(15日以上):一律1万円 |
傷害保険 死亡若しくは重度後遺障害:一律100万円 入院(15日以上):一律1万円 被害者見舞金一律10万円 |
賠償責任の補償額 最高1000万円 |
賠償責任の補償額 最高5000万円 |
※第二種TSマーク(赤色マーク)には、被害者見舞金一律10万円(入院15日以上)も付いています。
ただし、TSマークにはいくつか注意点があります。
- TSマーク貼付の自転車で起こした事故のみ保険が適用
- 保険の有効期限は、TSマークに記載の点検日から1年間(有効期限が切れたら、有料で点検整備を受ける必要あり。場合によっては部品交換費用も別途必要)
- 対物賠償(他人のモノを壊してしまった場合)の補償はない
- 示談交渉サービスはない
裁判の事例を見ても分かるとおり、賠償請求が5000万円を超えるケースもあり、TSマークの補償内容ではちょっと心配です。
火災保険の特約なら年1,000~2,000円程度
自転車保険でなくても、自転車事故による賠償責任を補償してくれるなら、どのような保険でも大丈夫です。
例えば、賃貸マンション契約時に加入する火災保険に”個人賠償責任補償の特約”を付ければ、年1,000~2,000円程度で自転車事故による損害を補償できます。
※特約とは、保険の補償範囲を広げるために付ける「オプション」です。
自転車事故だけでなく、住宅や日常生活における事故により、他人の身体やモノに損害を与えた場合も補償が受けられます。
他にも、
- 医療保険の特約
- 火災保険の特約
- クレジットカードの特約
でカバーできる可能性があります。
最後に
今のところ、「自転車保険に加入していないから」と言って、罰則・罰金が科せられる訳ではありませんが、実際の判例で自動車事故に匹敵する”高額な賠償請求”の判決が下されています。
事故はいつ何時起こるか分かりません。ちょっとした不注意で自分が加害者になるケースもあります。
万が一に備えて、家族を含めて、自転車事故に対応する保険には加入しましょう。
自転車保険で必要なのは、他人への怪我などを補償する「個人賠償責任保険」です。
あわてて自転車保険に加入するのではなく、まずは、「すでに個人賠償責任保険に入っているかどうか」確認しましょう。
保険の補償範囲が重複しても、補償金が重ねて払われることはありません。
例えば、A社で補償額が最高1000万円、B社で補償額が最高2000万円の保険にそれぞれ加入していたとします。
このとき、事故で3000万円の賠償請求がされたときでも、補償金は2000万円までしか支払われません。
つまり、重複している部分の保険は無駄です。
保険料を下げるために補償の重複はなくしましょう。
もし、なにも加入していないなら、「現在加入してる火災保険や自動車保険、クレジットカードに特約(オプション)として追加できるか」問合せてみましょう。
新しく自転車保険に加入するより、他保険の特約の方が保険料が安いケースがあります。