「親から相続した家が空き家になってしまった・・・」
近年、このような”実家の相続”についての悩みを抱える方が増えています。
事実、日本全国の空き家率は、右肩上がりで上昇。
前回の調査(2013年)では、13.5%と過去最高を記録しました。
出典:株式会社野村総合研究所
今後はさらに上昇を続け、2033年には全体の30.2%が空き家になると予測されています。
目次
政府も「空き家」対策に乗り出した
長年放置された空き家は、
- 老朽化や自然災害による倒壊
- 放火による火事・火災
- 景観や衛生の悪化
など、地域住民に被害をもたらし、実際にトラブル件数も増えています。
このような事態を受け、政府は、2015年5月に「空き家対策法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」を全面施行。
この法令によって、次の(イ)~(ニ)に当てはまる「空き家」は、「特定空き家」に指定されるようになりました。
(イ)そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
(ロ)そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
(ハ)適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
(ニ)その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態出典:国土交通省「特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン) 」
特別空き家のデメリット
ひとたび「特別空き家」に指定されてしまうと、所有者にとって、さまざまなデメリットがあります。
代表的なものは、
- 固定資産税の軽減がなくなる
- 都市計画税の軽減がなくなる
- 撤去や修繕命令が下される
の3つです。
1. 固定資産税の軽減がなくなる
最も大きなデメリットは、固定資産税の軽減がなくなることです。
皆さんご存知のとおり、不動産(土地・建物など)を所有していると、「固定資産税」がかかります。
固定資産税の計算方法は、課税評価額(税金を算出する基となる金額)に1.4%をかけた金額が基本ですが、現在、住宅用地に関しては、”最大6分の1”に軽減される特別措置がなされています。
固定資産税が最大6倍に
しかし、2015年5月に制定された「空き家対策法」により、所有する空き家が「特定空き家」に指定されてしまうと、“最大6分の1″の軽減措置の対象から外されます。
結果として、土地にかかる固定資産税が最大6倍に跳ね上がってしまいます。
分かりやすく表で比較すると次の通り。
土地の状態 | 固定資産税 (空き家) |
固定資産税 (特定空き家) |
---|---|---|
更地 (建物のない状態) |
課税標準額 × 1.4% | 課税標準額 × 1.4% |
小規模住宅用地 (1戸当たり200m2以下) |
課税標準額 × 6分の1 × 1.4% | 課税標準額 × 1.4% |
一般住宅用地 (1戸当たり200m2以上) |
課税標準額 × 3分の1 × 1.4% | 課税標準額 × 1.4% |
特別空き家の指定により、小規模住宅用地の6分の1の軽減、一般住宅用地の3分の1の軽減がなくなっているのが分かります。
もう少し分かりやすいように、具体的な数字を当てはめてみます。
条件は次の通り。
- 住宅用地:185m2
- 課税評価額(土地):1500万円
- 課税評価額(建物):600万円
項目 | 固定資産税 (空き家) |
固定資産税 (特定空き家) |
---|---|---|
土地 (1500万円) |
1500万円 × 6分の1 × 1.4% = 35,000円 |
1500万円 × 1.4% = 210,000円 |
建物 (600万円) |
600万円 × 1.4% = 84,000円 |
600万円 × 1.4% = 84,000円 |
合計 | 119,000円 | 294,000円 |
特定空き家の指定により、軽減措置がなくなったことで、土地にかかる固定資産税が
35,000円 → 210,000円
の6倍に上昇することが分かります。
その結果、固定資産税(土地・建物の合計)が年間175,000円上昇。
5年間では、875,000円の負担増となります。
このように、軽減措置がなくなることで、税金の負担が一気に増えることが分かります。
2. 都市計画税の軽減がなくなる
不動産を所有していると、固定資産税と同様に「都市計画税」もかかってきます。(課税されない地域もあります。)
都市計画税の計算方法は、課税評価額に0.3%をかけた金額が基本ですが、現在、住宅用地に関しては、”3分の1”に軽減される特別措置がなされています。
都市計画税が最大3倍に
先ほどの固定資産税と同様に、所有する空き家が「特定空き家」に指定されてしまうと、“3分の1″の軽減措置の対象から外されます。
結果として、土地にかかる都市計画税が最大3倍に跳ね上がってしまいます。
分かりやすく表で比較すると次の通り。
土地の状態 | 都市計画税 (空き家) |
都市計画税 (特定空き家) |
---|---|---|
更地 (建物のない状態) |
課税標準額 × 0.3% | 課税標準額 × 0.3% |
小規模住宅用地 (1戸当たり200m2以下) |
課税標準額 × 3分の1 × 0.3% | 課税標準額 × 0.3% |
一般住宅用地 (1戸当たり200m2以上) |
課税標準額 × 3分の1 × 0.3% | 課税標準額 × 0.3% |
※市町村によっては、税率が異なる場合があります。
固定資産税と同様に、具体的な数字を当てはめてみます。
条件は次の通り。
- 住宅用地:185m2
- 課税評価額(土地):1500万円
- 課税評価額(建物):600万円
項目 | 都市計画税 (空き家) |
都市計画税 (特定空き家) |
---|---|---|
土地 (1500万円) |
1500万円 × 3分の1 × 0.3% = 15,000円 |
1500万円 × 0.3% = 45,000円 |
建物 (600万円) |
600万円 × 0.3% = 18,000円 |
600万円 × 0.3% = 18,000円 |
合計 | 33,000円 | 63,000円 |
特定空き家の指定により、軽減措置がなくなったことで、土地にかかる都市計画税が
15,000円 → 45,000円
の3倍に上昇することが分かります。
その結果、固定資産税(土地・建物の合計)が年間30,000円上昇。
5年間では、150,000円の負担増となります。
先ほどの固定資産税と都市計画税を合わせると、年間205,000円、5年間で1,025,000円の負担増です。
3. 撤去や修繕命令が下される
また、所有する空き家が「特定空き家」に指定されると、最終的には「空き家」を強制撤去されてしまう恐れがあります。
強制撤去までには、
- 調査
- 助言または指導
- 勧告
- 命令
- 行政代執行
と相当の猶予期間がありますが、無視し続ければ、
- 50万円以下の過料に処せられる
- 行政代執行による空き家の強制撤去
という措置がなされます。
そのため、空き家が強制撤去され、土地が”更地”になれば、最大6分の1の固定資産税の軽減措置もなくなってしまいます。
(この税制の仕組みが、所有者が「周辺に迷惑がかかるため、空き家を取り壊してしまいたい」気持ちはありながらも、踏み切れない事情の1つになっています。)
撤去費用は所有者負担
空き家の強制撤去に要した費用は、空き家所有者の負担となり、支払いに応じない場合は、市町村より民事訴訟を提起されます。
最悪の場合は、強制執行となり、給料、銀行預金、不動産などの財産が差し押さえられることになります。
特定空き家にさせないために
空き家を「特定空き家」にさせないためには、定期的に適切な管理をすることが大切。
なぜなら、人が住まない家は劣化が早いからです。
原因としては、
- 換気不足
- 掃除不足
- 通水不足
などがあげられます。
1. 換気不足
高温多湿な日本では、人が住まなくなり、長期間玄関や窓が締め切ったままになると、すぐに湿気がたまってしまいます。
湿気がたまると、カビの繁殖して、害虫の発生原因に。
特に木造住宅の場合は、木材部分の劣化が早く進み、結果として、家の耐久性が低下してしまいます。
2. 掃除不足
掃除をしていないと、ホコリが蓄積してきます。
そうなると、ゴキブリやクモ、蛇、ねずみなどが増える原因となり、当然、家の劣化も早く進行します。
また、野生動物の糞尿や死骸により、不衛生な状態になることで、異臭も放つようになります。
3. 通水不足
人が住まなくなり、水道がしばらく使われていないと「排水トラップ」の水が蒸発します。
そうなると、配管に付着したヘドロが硬化して汚れたり、下水から異臭が発生。
害虫を呼び寄せる原因となります。
他にも、早急な対応が必要になる雨漏れなどのトラブルにも気づきにくく、劣化を早めてしまいます。
維持管理に年間38万円も
空き家を「特定空き家」にさせないためには、定期的な「換気」「掃除」「通水」などの維持管理が必要不可欠です。
ですが、相続などにより所有した「空き家」が遠方にある場合は、交通費だけでも大変な負担です。
例えば、大阪居住で福井県の実家を相続した場合、毎年使うお金は、次のようになります。
- 固定資産税:10万円
- 都市計画税:3万円
- 火災保険:2万円
- 光熱費:3万円
- 草刈り(業者依頼):4万円
- 交通費(夫婦2人で年4回):16万円
年間合計:38万円
あくまでも一例ですが、ざっと見ただけでも、空き家を維持管理するには、それなりのコストと時間がかかることが分かります。
この他にも、屋根や外壁などの修繕が必要になれば、数百万単位で費用が発生する可能性もあります。
売却するのも1つの手
ご両親のご存命中に「相続した実家をどうするか」を話し合っておくことが理想ですが、すでに相続した後であれば、今一度、真剣に考えるべきでしょう。
「両親と過ごした思い出の詰まった実家をそのまま残しておきたい。」気持ちは分かります。
しかし、今回紹介したとおり、放置しておけば、「特定空き家」に指定されるリスクも高くなります。
そうなれば、固定資産税・都市計画税の負担が増えたり、所有者負担の強制撤去もありえます。
また、建物が朽ち果てないように維持管理をしようにも、それ相当のコストがかかります。
あなたは、今後数十年間も、それらの費用と手間をかける覚悟はありますか?
具体的に「この家をどうしたいのか」方針を決めないのは、ただ問題を先送りしているだけです。
そうしてる間にも、建物の劣化とともに価値が下がり、メンテナンのコストも増えていきます。
だからこそ、自分たち家族の将来を考えて、今すぐにでも「どうするべきか」考えてみるべきです。
- セカンドハウスとして活用する
- 引退してから移り住む
- 誰かに貸し出す
など、さまざまなケースが考えられますが、いっそのこと価値がある内に売却するのも一つの手といえます。
幸いなことに、現在は、中古住宅が売りやすくなっています。
昔は、新築を持つことがステータスとされる「新築至上主義」が日本に根づいていましたが、
- 中古住宅に対する住宅ローンの緩和
- 新築に偏重していた優遇税制の拡充
さらには、「資金計画に余裕を持たすことができる」「新築住宅にこだわらない」「リフォームすれば快適に住める」など、考え方も変わってきました。
その結果、若い世代を中心として、リフォーム前提に「中古住宅」を購入するケースが増えてきています。
出典:株式会社野村総合研究所
▲上記のグラフを見ると、中古住宅を購入する割合は、2005年に18%だったのが、2015年には29%となっています。
現在は、売却する側にとっては、有利な環境ですので、築年数が経っていても、売れる可能性は十分にあります。
「まだ、どうしようか迷っている・・・」という方も、一度、不動産屋に売却査定をしてもらい、その査定額を基に売るか売らないか決めてもいいでしょう。
今後、日本の人口は急激に減少していきます。
空き家問題がますます本格化する前に決断されることをおすすめします。